【エッセイ】居心地がよかった場所を離れてみる


          
自分が何かおとっているような
自分の何かが欠けているような
そんな気がして
いつも誰かがうらやましかった
  
   
自分が持っていないものを
他の人はみんな持っている
そんな気さえしていた
  
     
なんであのひとは
いつも輝いているんだろう
どうして私は
あんな風に輝けないんだろう
 
 
そう思って生きていた
     
   
でも自分にも輝ける場所が
どこかにあると信じていた
   
    
いつかは輝けるんだって
信じて疑わなかった
疑いたくなかった
       
        
だって、もしそんな場所が
存在しないかもしれないと
疑ってしまったのなら
     
     
私はその場でうずくまって
二度と動けなくなって
しまうかもしれないから
     
       
今までの人生の失敗は
すべて帳消ちょうけしになるくらい
輝くことができて
   
   
そんな私を
必要としてくれる人が
どこかにいるはずだと
   
    
信じ続けて
彷徨さまよい続けていた日々の中で
私は一筋の光を見つけた
    
    
その光は
スピリチュアルな世界にあった
     
     
私にとってその世界(業界)は
すべてが輝いているように見えた
そこにいる人たちも
とても美しく輝いていた
     
   
まるで
宝石箱の中の世界
    
    
あそこへ行けば
私も絶対に輝けるはず!!
     
    
その瞬間から
その場所は
いつか辿りつきたい
私の憧れの場所になった
     
     
どうにかして
その場所に辿り着きたくて
道を探して歩き回った     
    
         
でも
なかなかたどり着かなくて
道が見つからないとあきらめかけ
忘れたときに
その楽園は
いきなり目の前に現れた
     
     
その場所はやはり輝いていた
そこかしこから放たれる
光に照らされて
自分も輝いているような気がした
    
     
『思っていたとおり!
 ここが私の居場所なんだ!
 そうに違いない!!』
           
          
その場所で私は
つばさが生えたように自由だった
    
    
誰もが優しかった
私をもてなしてくれた
大切にしてくれた
私の話を真剣に聞いてくれた
  
   
すべてが
私の思いのままだった
これまでのつらかったことが
すべてが報われた気がした
    
    
幸せだった
とても幸せだった
喜びが溢れていて
そして自由だった
          
            
ただそれだけで
よかった
    
   
ただそれだけで
よかったのにね
   
     
人間とは欲深よくぶかいもので
そのうちに私は
その場所から溢れる光を
     
      
もっと手に入れたい
手に入れなければならない
もっともっと
輝かなければならないと
そう思うようになっていた
      
      
そしてその美しい世界から
決して自分が
あぶれ出さないように
はみ出してしまわないように
     
      
何かに必死に
しがみつくようになっていった
        
       
私は話すのが
得意ではなかったけれど
   
   
私のことを
忘れてもらわないように
私に気づいてもらえるように
大きな声で話し続けた
   
           
私はあまり笑わない人だった
でも私は笑い続けた
笑顔を絶やさなかった
   
      
そうしなければ
いけないと思っていた
だから悲しいときも笑った
     
    
私は静かな場所が好きだった
1人で過ごすのが好きだった
    
   
でも誰よりも着飾きかざって
大きな宝石を身に着けて
たくさんの人の中に
飛び込んでいったんだ
  
  
おぼれないように
必死にもがきながら
      
         
そして私は求められたら
私は悪魔にもなった
    
      
弱いものを卑下ひげして
力の無いものをあざ笑う
悪魔の仮面をかぶることにも
躊躇ちゅうちょしなくなった
        
     
そうしているうちに
私は翼を失った
もう飛べなくなってしまった
       
       
でもそれでも
その世界は美しかった
  
  
相変わらず
すべてが輝いていた
そこにいた人たちも
みんな輝いていた
   
      
でも私はどうだろう?
私の輝きは?
     
      
私の輝きは
もう見えなくなっていた
私は光を見失っていた
   
     
どこを探しても
どれだけ目を凝らしても
私の光はもうどこに無かった
     
       
その世界にあるものは
すべて輝いて美しいのに
私の光だけは
もう見えなくなっていたんだ
     
   
その世界では
私だけが輝いていなかった
    
    
私の光は、私の輝きは
消えてしまったんだろうか
失われてしまったんだろう   
   
     
それとも
最初からそんなもの
無かったのだろうか
   
    
すべて夢だったのだろうか
幻想だったのだろうか
            
                 
夢からめたわたしは
もうここには
居られないと気づいた
    
       
ここでは私は
私の光を見つけることが
できなくなってしまったから
        
        
だから旅立つことにした
心地のよかった
優しい世界、輝く世界
私を包んでくれた世界
そこを離れることにした
    
      
そして
私はたどり着いた場所は
真っ暗なやみの中だった
      
      
そこには何もなかった
光も輝きも何もなかった
     
        
これまでに
手に入れたと思っていたものは
跡形あとかたもなくすべて消えて
   
     
そこはとても不安定で
まるで崩れ落ちる砂の上に
立っているような世界
            
           
そんな暗闇の中で
私はなんだか悲しくて
淋しくてそして怖くて
      
        
今にも
泣き出しそうな顔をしながら
何かに怯えていたんだ
     
       
でもその暗闇の中で
しばらくすると
何かが見えてきた
   
    
とても小さい何かだ
気をつけて見ないと
見過ごしてしまいそうなくらい
小さい何かを私は見つけた
   
  
その”小さなもの”を
そっと手にとって
目を近づけてみる
     
   
それは光だった
私の光だった
        
         
今にも
消えてしまいそうなくらい
とても小さい光だけど
それは間違いなく
私の光だった
       
           
その光はずっと私の中に
あった輝きだった
      
       
これまでいた
楽園みたいな場所が
まばゆすぎて
見失っていた私の光
                  
         
私はずっと探していたものを
何にも無いと思っていた
暗闇の中で
ようやく見つけたのだ
     
     
『やっと見つけた私の光』
    
   
私は自分の光を抱きしめて
そしてその小さな光を
大事にポケットにしまって
歩きだした
     
     
どこに向かうかは
分からないけれど
とにかく私は歩き出したんだ
    
       
歩きながらふと
私が憧れていた
楽園のような世界を
思い出した
     
      
私はあの世界を
愛していた
すべてが輝く美しい世界
      
        
でも一つだけ
学んだことがある
それは・・・     
     
           
美しいものは
外から眺めているときの方が
幸せなのかもしれない
という事だ
              
               
自分の中の
一番大切なものだからこそ
   
    
手に入れない、近づかない
そんな愛し方もあるのかも
しれないね
    
      
手に入れてしまったら
近づきずぎてしまったら
見なくていいものまで
見えてしまうもの
       
       
もう二度と
私の光を見失わないように
     
    
今日も私は
私の小さな小さな光を
そっと握りしめて眠るんだ
    
𝑁𝑜𝑎ℎ☪*̣̩